大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)203号 判決 1968年7月16日

上告人

園部進

ほか一名

右両名代理人

久保寺誠夫

被上告人

松本幸三郎

代理人

森茂

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人久保寺誠夫の上告理由第二点について。

原審は「昭和一四年一月二〇日当時木村なみとしてその家の戸主であつたなみが隠居し、翌二一日右家の戸籍を去つて実子敏夫の籍に入つたことにより、なみと被控訴人(上告人)あいの前記養親子関係は旧民法七三〇条二項に所謂養親の去家によつて消滅したことが明らかである」と判示し、本件土地の賃借権を前記上告人が相続によつて承継したとする上告人らの主張を排斥している。しかしながら、民法七三〇条二項(昭和二二年法律第二二二号による改正前のもの。以下旧民法という。)の「養親カ養家ヲ去リタルトキ」とは、養親自身が婚姻または養子縁組によつてその家に入つた者である場合に、その養親が養家を去つたときの意と解すべきであるから、原審は、右のように木村なみと上告人あいとの養親子関係が消滅したとするためには、なみ自身が婚姻または養子縁組によつてその家に入つたものであることを確定すべきものであつたのである。しかるに、原審は、右事実を確定することなくなみの去家の事実から直ちになみと上告人あいとの養親子関係が消滅したと判示しているのであつて、原判決にはこの点において、右旧民法の規定の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。

ところで、記録によれば、木村なみの除籍簿の抄本である乙第一号証には、なみが婚姻、養子縁組をした旨の記載はなく、かえつて同女がその姉であり前戸主であつたチカを継いで戸主となつた旨の記載がみられるのであつて、この記載は、なみと上告人あいの養親子関係が、なみの去家によつてい未だ消滅していなかつた事実を窺知させる資料ということができる。しかして、もし、なみと上告人あいの養親子関係が存続していたならば、上告人あいは、なみの死亡により、本件土地に対する同人の賃借権を相続によつて取得する関係にあるのであり、また、原判示のように、なみから上告人あいに対する本件土地の転貸または賃借権譲渡について、地主である丈吉の承認の事実が認められないとしても、あいはなみの右契約上の地位を相続することによつて、その賃借権を丈吉の承継人である被上告人に対抗しうる関係にあるものということができる。

つぎに、上告人進についてみても、右のとおり上告人あいが被上告人に対して本件土地の賃借権を対抗しうるとするならば、被上告人は上告人進に対して同人名義の建物の収去を求めうるとしても、結局その敷地の終局的明渡を求めえない関係にあるのである。また、かりに、なみから上告人進に対する賃借権の一部譲渡または転貸について被上告人の先代丈吉の承認がなかつたとしても、原審の確定するところによれば、本件二棟の建物は棟続きで事実上一棟をなし、その敷地である本件土地も一筆で特段の境、区画を有しないというのであり、さらに、また上告人進は同あいの夫であつて、同人らはなみと昭和二〇年以来右両建物において同居しており、なみが生前右建物の各一棟を上告人らにそれぞれ贈与したのも、同人らに対する財産分けのつもりでしたもので、その後も同人らの本件土地建物の使用状況には格別の変動は認められなかつたというのであるから、これらの事情からすれば、丈吉としては、右賃借権の譲渡または転貸の事実のみをもつて、直ちに、民法六一二条により賃貸借契約を解除しえないものと解するのが相当である。そうであれば、被上告人の上告人進に対する本件建物の収去および土地の明渡の請求も権利の濫用にあたるおそれなしとせず、同人の右請求は直ちにこれを認容しえないものといわなければならない。

以上を要するに、原審は前記のとおり旧民法七三〇条二項の解釈を誤り、ひいて被上告人の上告人らに対する本件建物の収去および土地の明渡請求権の存否に関する法令の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りは原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は、その余の上告理由について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、さらにこの点について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例